罪シリーズ
「先生! 朗報です」
仕事場に足を踏み入れた桜井透也がそういうのを聞き、パソコンに向かっていた穂高櫂は顔を上げた。
「何だ、透也」
今日も恋人の穂高の顔立ちは端整で男らしく、透也は密かに見惚れかけてしまう。
「ホットケーキミックスを使えば、誰にでも美味しくお菓子が作れるって聞いたんです」
透也はそう言って、ここに来る前に買ってきた輸入もののカラフルなホットケーキミックスの箱をぱんと叩いた。
「つまり?」
「先生もこれを使ってくだされれば、成功する確率が格段に上がります」
透也がぎゅっと手を握り締めて力説する。
成功する確率、という言葉に穂高が反応したので、透也は内心で「しまった」と思ったものの、ぐっとそれを呑み込む。
「……君はわかっていないな」
「何が、ですか?」
「ローマは一日にして成らず。楽をしていては料理を極めることはできない」
「先生、もしかして料理を極めるつもりだったんですか……?」
なんて恐ろしいことを言うのか、と透也はまじまじと穂高の美貌を見つめた。
「そうだ。君に食べさせるためには、精進しなくてはいけない」
その言葉に、透也の口許にふっと笑みが零れてしまう。
「先生が作ってくれるものなら、きっと世界で一番美味しいと思います」
「そう思うか?」
「はい」
「だったら早速、新作の味を見てくれ。キッチンに用意してある」
立ち上がってそそくさとキッチンへ向かおうとする穂高の背中を見て、透也は思わず苦笑する。
「先生」
「ん?」
「その前にキスしてくれませんか?」
「ああ、口直しを前払いしよう」
先にキスしてもらったら口直しにはならないけれど、でも、キスの理由になるなら何でもいい。
透也は穂高の首に腕を回し、甘く息を吐いた。
END
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